no.17 いざ、ガイド付きハンティングへ〈後編〉
				初の猟果は?ありちゃんの狩猟デビュー。

ハンターのだいぞうです。村の全域が猟区となっている北海道西興部(にしおこっぺ)村で、ついに「流し猟」に出発したありちゃん(前編はこちら)。初めて猟銃を持つ緊張感とともにエゾシカを探しながら車で移動。そしてエゾシカを発見!ありちゃんはガイドの伊吾田さんと車を降りて、山際のシカにそーっと近づいていきましたが……。

エゾシカを見つけたい、近づきたい!

(小声で)銃のカバーを取って、装てんしましょう。ゆっくりでいいからしっかりと構えて……

はい…。

………

……

あ!

逃げられたね。

弾を装てんしようとしていたら、あっと言う間に山の上に行っちゃったー。シカってあんな声で鳴くんですね。お尻の白い毛も広がっていた!

警戒の鳴き声です。お尻の白い部分を広げるのも仲間に知らせる警戒警報なんですよ。さ、銃にカバーをかけて車に戻りましょう。

警戒されていたね。車の中まで鳴き声が聞こえたよ。

木の間に姿は確認できたんですけど、モタモタしていたら逃げられちゃいました。ナサケナイ……。

いや、まずは銃を持って雪の中を歩いて、獲物を確認しながら銃カバーをはずせただけでも一歩前進ですよ。

はい。実はさっきまでドキドキし過ぎて、いっそエゾシカが出て来ないでくれたらいいのにって思っていたんですが……

あはは。ちょっとわかります。

でも、実際にシカを確認して、カバーをはずしたら落ち着いて来たような気がします。

撃つまでのイメージができたからかな?良かった。

あ、右手にいますね。山際のところ。

いるね。

車を止めて行ってみましょう。

はい!(みんなスゴイ。やっぱり、ワタシだけ見つけられないよ〜)

ありちゃんとガイドの伊吾田さんは車を降りてエゾシカのもとへ。エゾシカが逃げてしまうのでドアをバタン!と閉めないようにね。

はっ!斜面にいる……。

50mちょっと(の距離)かな。準備して。

はい。

なるべくシカから目を離さないように。

はい。(カバーをはずして……、ポケットから弾を出して装てんして……、構えて、狙う!よし!)

???(……シカが逃げていく)。

うん、手前の枝に当たったよ。失中です。でもまた一歩前進したね、ありちゃん。初の発砲だ。
※ 失中:標的を外して当たらないこと

は、はい。

おかえりなさい。発砲しましたね!

落ち着いて狙ったと思ったんだけど、当たらなかったです。

初発砲で命中していたらこっちが驚くよ。ははは。

また、午後にがんばりましょう。お昼は「ホテル森夢(リム)」のレストランがおすすめです。

あ!チェックしてました!エゾシカ肉のシチューが楽しみで(笑)。

ホント、そういうところしっかりしてるな〜。

少し山に入るとエゾシカの足跡があちこちに。エサとなる葉などが雪に覆われると樹皮を食べています。

チャンスが訪れず、とうとう日没が……。

エゾシカを確認しながら射程距離まで近づき、銃カバーをはずして構え、狙って発砲。命中させることはできなかったけれど、この一連の流れを体験できたありちゃん。初めて獲物を狙っての発砲でしたが、ガイドの指示に従い、頭の中で「できるだけ丁寧に」と手順を追ったことで落ち着いて操作ができたそうです。
お昼をはさみ、午後からも「流し猟」へ。何度か銃を構えるチャンスはありましたが、なかなかタイミングが合いません。そのうちに日没が近づいてきました。
ありちゃんの顔に焦りの色が……。

※日没後から日の出前までの発砲は禁止されています。日没・日の出の時刻とは,暦による時刻で、出猟日ごとに確認が必要。


そろそろ時間が……。

ああ、日没の時間!(焦っちゃだめ!でも焦る〜〜)

今日は16時38分ですね。

あれ?あの斜面に……

一頭いますね。行ってみましょう。今日のラストチャンスだ。

うう……絶対仕留めたい!!

けっこう奥に入ったのかな?姿が見えなくなったね。

あと5分……。(間に合うかな……)

(もう今日は難しいか……)

たけだーーーーーー!ソリとスノーシュー持って来て!!

はいっっっ!

おおおっ!仕留めたのか?

私たちもスノーシューを履いて行きましょう!

はぁぁぁぁ。なんかもう。わぁ〜〜〜。

ありちゃんやりましたよ。止め刺しは終わっています。まずはソリに乗せて車に積みましょう。解体処理場に運びます。

は、は、はいっ!!

(ありちゃん、泣いているね……。ついにやったね。頑張ったね……。)

初めてエゾシカを仕留めたありちゃん。まだ動いていたエゾシカを安全に捕獲するために、止め刺し(放血)はガイドの伊吾田さんがナイフで行いました。

なんと、日没ギリギリの捕獲でした。この後、肉の鮮度を保つため、できるだけ素早く獲物を車に積んで解体処理場へ運びます。その車中で発砲時の様子を聞いてみました。


ついに仕留めたね。どんな状況だったの?

え、えーと。一頭だけでいたエゾシカを見つけて近づいたんです。結構雪深い場所で歩くのが大変でした。でもシカが後ろ向きだったせいかこちらに気付かなくて、目で捕らえつつ準備ができたんです。

焦らなかった?

はい。正直、焦りました。まだドキドキしてるもの。でも銃は冷静に扱わなきゃって気持ちを落ち着かせて。今までやってきた手順で構えて狙うことができました。

どこに当たったかわかる?

たぶん、背中。お尻に近い背中だったと思います。だから一発で仕留めることができなくて、かわいそうなことしちゃった……。

泣いちゃったね(笑)。

はい……。何か……もう……獲物を仕留めたいって思っていたから、ついにやった!という高揚感と安堵感と……。そして目の前で命の力強さと対面したら、胸の奥から熱いものが込み上げて。よくわからないけど泣いちゃいました……。

うん。おいしくいただきましょうね。

はいっ!大事にいただきます。

氷点下の解体!思わぬ温かさを知りました。

村内の解体処理場に到着した頃にはすっかり日が暮れて。

今日はもう時間も遅いので、内臓を出すところまで処理します。明日、剥皮と抜骨をしましょう。

はい!

体重のほか、体長、胸囲などのサイズも計測。捕獲個体の情報として記録します。ちなみにこの獲物は当歳(0歳)なのでかなり小さいサイズです。

いやしかし、天然の冷凍庫だね。

手がすぐにかじかみます(笑)。

次に内臓を出しますけど……

できるだけ自分でやらせてください!

では一緒に作業していきましょう。

ありちゃんは獲物を前にして寒さを感じていないみたいだね。

はい、ここからナイフを入れてお腹を開くよ。中の内臓を傷つけないように注意して。

は!あったかい……。

それ、初めて解体したみなさんが言いますね。

当たり前のことだけど、感動しました。


この日の作業は内臓を取り出して頭部をはずすところまででした。冷えているのでニオイは感じません。初めての作業でもっと戸惑うかと思いましたが、ありちゃんはものすごく集中していました。慣れないナイフを使って内臓を取り出し、ハツ(心臓)とレバー(肝臓)もおいしくいただけるよう、キレイに処理もして。以前、解体の様子を見学した際にも感じましたが、こういう時って女性の方が度胸があるのかな。

── そして二日目の朝 ──

西興部村二日目は、同じ場所で解体の続きです。ありちゃんの大好きなお肉を切り分けます。

翌朝の西興部村。晴れていますが空気はキンキンに冷えています。

おはようございます。よく眠れたみたいだね。

はい!ちゃんと銃の手入れをして、ぐっすり眠りました!

じゃあ、さっそく皮をはがしましょう。こんな風にナイフを入れて。

う、キレイにいかない……。

慎重かつ大胆に手を動かすように。ナイフを入れる位置を覚えるといいですよ。

弾が背中に当たって抜けているのがわかるかい?

わかります。あ〜、当たった部分のお肉は食べられないんですね?

人気の部位の背ロースは残念でした(笑)。でも内臓を傷つけなかったので、おいしく食べられる部分は結構ありますよ。

仕留め方の大切さを実感しちゃいます……。射撃の練習をもっとしなくては!

「皮をはがして、骨を抜いてお肉を取るともう食べ物を扱っている感覚になります」とありちゃん。武田さんに教えてもらいながら各部位に切り分けていきます。まるで女性2人でキッチンに立っているようです。

昨日今日とお疲れさまでした。あとは配送手続きをして終了です。

は〜、うれしい。自分で獲ってお肉にできた!大好きなお肉が食べられるようになるまでは、これだけの工程を経て来てるって実感できました。反省点もあるのでまだまだ練習が必要ですが。

今回の経験を活かして、また来てください。

はい!本当にありがとうございました。まずは東京でおいしくいただきます。友達みんなに振る舞いたい!

少しでいいから、カリタローにも分けてやってね(笑)。

はーい!お肉って本当にごちそうですね!

西興部村猟区のみなさん、ありがとうございました!「また来ます!」(あり)

初の獲物に感動と、感謝と。

初めての出猟で発砲、捕獲、解体と内容の濃い体験だったと思います。天気や運にも恵まれ、狩りガールありちゃんの第一歩が踏み出せたね。おめでとう!
実は後日、今回の獲物を使った手料理をありちゃんが振る舞ってくれました。

ありちゃんお手製のエゾシカ肉料理パーティーを楽しみました。

あらためて、ありちゃん!初獲物おめでとう!!

わおーーーーん!ボクもうれしいワン。

だいぞう師匠、カリタローありがとう!!ここまで来るのに「どうしよう?大丈夫かな」と思うこともたびたびあったけど、みんなのおかげでどうにか狩りガールデビューできました!

ぐ〜〜〜〜。ありちゃん。オナカが空いちゃってガマンできないワン〜。

あはは!そうだね。じゃあ、さっそく私の初めての獲物を召し上がれ〜。

このお肉、とってもおいしいね。どの料理もスバラシイ!

えへへ。実は料理上手な友達に手伝ってもらったんです。でも、普段作る料理をホメられるより幸せ!獲物のシカさんのこともホメられているみたいでウレシイです。

自分で食材を調達した喜びだね。

ですね!自分で獲ったお肉を大好物の料理にして、おいしくいただく。その夢がひとつ叶いました。

これからもっと夢が広がりそうだね。

はい。やっとハンターのスタートラインに立ったところなので、これからもっと腕を磨いて経験を積みたいです。

ボクも憧れの先輩たち(猟犬)を目指すぞ。

いっしょにがんばろうね!

では、ありちゃん。無事「狩りガール」になれた感想をどうぞ。

出猟前の緊張から、エゾシカを探すワクワク感。そして命と向かい合う瞬間。さまざまな感情があふれました。解体する時は獲物に対する責任というか、できるだけ無駄なく大事にいただきたいという思いでいっぱいでした。
止め刺しも自分でできなかったし、射撃の腕もまだまだなので、次回に向けての目標ができたと思います。

うんうん。

はー!ついにデビューできたよー。

NPO法人西興部村猟区管理協会 エゾシカの有効活用を実践するNPO法人。エゾシカによる農林業被害を軽減しつつ地域資源として持続的に活用し、西興部村の活性化につなげている。道内外のハンターのためのガイドハンティングや新人ハンター研修のほか、大学と連携した調査研究と実習の受け入れも行う。狩猟者以外でも自然とエゾシカの有効活用に親しめるエコツアーも開催している。
http://www.vill.nishiokoppe.hokkaido.jp/Villager/Ryouku/
※今回は旭川空港を利用しましたが、紋別空港からもアクセスできます。

伊吾田順平さん 神奈川県出身。ハンターになって8シーズン目を向かえる西興部村猟区管理協会事務局長。ハンティングガイドのほか、猟区での取り組みを中心とした講演も行う。奥様も影響を受けてハンターになり、有効活用の一環として皮なめしのサークル活動もされている。北海道猟友会興部支部西興部部会所属。

武田つぐみさん 群馬県出身。大学で狩猟管理学を学んだことをきっかけに狩猟の道へ。身長145cmの小柄な姿ながら狩猟から解体までひとりでこなし、ガイドのアシスタントも務めるタフな日常を送っている。ハンターデビューして2シーズン目。北海道猟友会興部支部西興部部会所属。


次回はいよいよこの連載にひと区切り。お見逃しなく。

                 

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