no.11 
				日本古来の巻き狩り猟を見学に。狩猟の現場ってどんなもの?

ありです。前回「イズシカ問屋」でシカによる農林業被害のお話を聞きました。これって伊豆だけのお話じゃなく、全国的に問題となっていること。その対策も各地で必要とされているそうです。そこで、今回は有害鳥獣対策に狩猟捕獲で協力している猟友会のみなさんを訪ねて、東京都檜原村(ひのはらむら)へ。
ワタシにとっては超先輩のハンターさんたちに会えるチャンス!今まで聞いてきた狩猟の現場を見られるとワクワクしながら行ってきました。

巻き狩りの前に「見切り」あり。

狩猟をする人々の集まり、猟友会。その役割のひとつに「有害鳥獣捕獲」があります。今、日本各地で野生動物による農林業の被害が増加。そこで、電柵やネットで畑などを保護する対策と併せて狩猟による捕獲も必要とされ、猟友会が協力してきました。ありちゃんもいずれ関わるかもしれない有害鳥獣捕獲の現場。長年携わってきた猟友会メンバーの話や、日本の伝統でもある「巻き狩り」という猟の方法をぜひ聞いてきてもらいたいな。

おはよーございます。朝7時、村役場前で東京都猟友会檜原支部の支部長、大谷さんと待ち合わせています。寒い!

(ボクは毛皮で寒くないワン)いよいよ狩りの現場に行くんだね!ありちゃん。

おはようございます。ありちゃん、カリタローくんようこそ!だいぞうさんから話は聞いているよ。

よろしくお願いしまっす!

あはは。気合い十分だね。メンバーはもう少し後に集合するんだけれど、まず我々は「見切り」に行こう。私の車で山に移動しましょう。

あの〜、「みきり」ってなんですか?

狩猟の前に巻き狩りをする場所の状態を見ておくことだよ。獲物がいるかどうか事前に知ることが大切だからね。よく見回って、いくつかある猟場からどこが良いか決めるための情報を集める。巻き狩りは山の広範囲に射手(しゃしゅ=銃で獲物を狙う人)や勢子(せこ=獲物を追い込む人)が散らばって獲物を追い込む猟だから、その日の山の状態を知っておくことが大切だよ。

そういう準備も必要なんだ!

山々が連なる眺め。「え!猟場ってこんなに広いの!!」各尾根に”タツマを張る”巻き狩りの範囲に驚くありちゃん。

お!ここで止まるよ。降りてついて来て。

何か見つけたのかワン?

この斜面、まわりと様子が違うのがわかるかな?

???

獣道(けものみち)が続いているんだけどな。

ああ!良く見たら細い道のようなのが森の奥に続いてますね。

道路を挟んで下の斜面にもつながっているよ。

ホントだ!言われなければ気付かないわ。草の切れ間にしか見えませんでした。

こういったポイントを探して、獲物の動きを確認していくんだ。

ワンワンワン!なんか追いかけたくなってきた。

おや、カリタローくんは獲物の気配を感じたかな?ほら、また移動するよ。

この藪の間、わかるかな。

わかったワン!

えーと……あ!これ、足跡ですか?う〜んと……このカタチは……。

シカ、シカ、ありちゃん、シカだよ。

そうだね。シカが上から下へ駆け下りていった様子がわかる。

移動の方向までわかるんですか?

シカやイノシシのヒヅメの向きを見ればわかるよ。巻き狩りは、こうした動物たちのサインを丁寧に見ていくことからはじまるんだ。

なんだか足跡をたどる刑事さんみたい!狩猟読本のイラストで見てはいたけれど、やっと本物の足跡を見られてうれしいです。でもこれ、自分で見つけられるかなぁ〜。

大丈夫、先輩について見慣れるうちにわかってくるから。こうして情報を集めてからチームで打合せをするよ。さあ、そろそろ集合場所で仲間と合流しよう。

見切りの途中でサルと遭遇。東京都とは思えないほど自然豊かな檜原村。

巻き狩りってチームワークの狩猟なんだ!

見切りを終えた大谷さんとありちゃんたちはメンバーの集合場所へ。メンバーは打合せの後、射手がタツマを張って(配置につく)、勢子は犬を入れる場所で待機。無線で準備完了を確認後、リーダーの大谷さんの指示で犬を放ち、巻き狩り猟がはじまりました。 ありちゃんは大谷さんの無線を聞きながら、地図で射手の配置を教えてもらっています。獲物が獲れるといいね。

檜原村で行われている巻き狩り猟。
配置や追い込み方は地域によって変わります。

カリタロー、憧れの先輩たち(猟犬)がいっぱいいたね。

う、うん。ク〜ン(先輩たち、カッコイイけど迫力がすごくてちょっとコワイ〜)。

猟犬たちは皆さんを見るだけで楽しそうに吠えていましたね!

早く猟に行きたくて興奮しているんだよ。

犬を連れていた勢子は、獲物を追い出す役割の人なんですよね?

そうだよ。犬に続いて獲物を追って、それぞれの射手が待機している場所に追い込むんだ。今日は勢子が2人、射手が8人。だいたいタツマを張って準備完了までに1時間くらいはかかるよ。

さっき皆さんが話してて気になったんですけど、そのタツマって何ですか?

タツマとは射手が配置される持ち場のこと。地域によっては違う呼び方をしているみたいだけどね。

独特の狩猟用語っていろいろあるんですね。

覚えることが色々あるね(笑)。タツマについたらしゃべっても動いてもダメ。犬や勢子の動きに集中して獲物を待つ。

ジッと待っているシャシュも大変そうだけど、追い込むのに走り回るセコも大変そう。

そうだね〜。体力も必要だし、獲物の動きも予測できないといけないだろうし。大谷さんのような全体を指揮するリーダーも誰でもなれるってワケじゃないんですよね?

そうだなぁ。タツマを張る場所を決める立場としては、まず地形を良く知っていて、巻き狩りの経験も積んでないといけないだろうなぁ。もちろん射手や勢子も地形をわかって、獲物がどこから来るか動きを読む必要があるけどね。

自信ない。何かひとりだけ山で迷子になっちゃいそう〜。

わはは。一人前になるまでは先輩がタツマまでちゃんと連れて行ってくれて、獲物がくる方向も教えてもらえるから心配しないで。巻き狩りはみんなの連携プレーで行うからね、狩猟に関わることは先輩から後輩にしっかり教えて育てていくんだよ。

有害鳥獣捕獲で年間どのくらい出猟するんですか?

猟期以外はほとんど毎週日曜に出猟しているね。年間を通して役場から有害鳥獣の駆除をお願いされているんだ。チームのみんなは休日返上でやってくれているよ。さすがに8〜9月半ばは暑さで犬も人もバテちゃうから出ないけど。

毎週!!そっか、巻き狩りってチームで動くからみんなが毎週集まらなくちゃいけないんだ。これは大変そうだ〜。

1回で獲れるのはせいぜい1〜2頭。続けていかないと、どんどん増えて山から里に下りてきてしまうからね。檜原の農家は我々を頼りにしてくれているんだ。

1〜2頭か……。貴重な獲物なんだなぁ。そんな獲物が自分の前に出てきて外したらどうしよー。みんなに悪いです〜。

あはは。獲るために最善を尽くしていることはお互いわかっているから仲間を責めないよ。もちろんボウズ(捕獲数ゼロ)の日もあるけれど、1人ひとりが自分の役割を果たせるように地形を頭に入れたり、責任を持って自分の持ち場で動いた結果なんだから。

それぞれの責任か。皆さん、チームとして狩猟に誇りを持っているんですね。

ナカマで信頼し合ってて、かっこいいワン。

銃声の後、シカを捕獲したとの連絡が入りました!

シカが獲れたようですね。これから猟犬たちを回収して、皆さんは狩猟小屋に集まります。巻き狩りで山にいる時間は日によってまちまち。タツマを張ってすぐ獲れて犬も戻ってくれば短い時間で済みますが、犬がどこまでも獲物を追って戻って来なければ夜までかかり、探しに行くこともあります。大変な作業ですが、そこには巻き狩りに参加するハンターだけがわかる「みんなで成功させる」喜びがあるんですね。
※狩猟(発砲)できる時間帯は日の出から日の入りまで。

終わった後は鍋を囲んで狩猟話、それも大切なことでした。

この後は狩猟小屋で猟師鍋を囲みながら、今日の巻き狩りの振り返りをします。おいしいからぜひ食べていって。

やったー!やっぱり仕留めた射手の方が一番うれしいんでしょうか?

私は自分が撃たなくてもチームとして獲れれば本当にうれしいよ。みんなで獲物に向かった成果だからね。自分の育てた猟犬が獲物を見つけてくれたらそれもうれしいなぁ。

獲物は撃ったヒトがもらうワン?

いやいや、みんなで山分けするんだよ(笑)。

そっか!でも……獲物を見つけられなかった犬もゴホウビもらえるのかな……

もちろん!みんなでがんばったんだからね。

よかった〜。

狩猟小屋で地図を見ながら今日の猟を振り返ります。

はい、シカ鍋をどうぞ。あったまるよ。こうやって、みんなで料理を囲みながら猟の話をするのも大きな楽しみなんだよ。

獲物をいただきながら狩猟の話、ハンターさんだけのお楽しみですね!

ここでありちゃんにウチの若手を紹介しよう。今度24歳になる平野佑樹くんと36歳の峰岸博文くんだ。2人ともお父さんがハンターで、昔から勢子として山に同行していたんだよ。

もぐもぐもぐ……よ、よろしくです!ワタシもハンターを目指しています。親子二代なんですね!

(峰岸)実は三代目です。

(平野)ボクは四代目(笑)。子どもの頃から自宅にハンターが集まっていたので、狩猟は生活の一部でした。

じゃあ、地図なんかもう頭に入っているんですね。

地元に住んでいるから地名もわかるし、小さい頃から山に入っているのでだいたいの地形はわかっています。

なんともうらやましい!さっきタツマに着く話を聞いて、自分なら藪の中で迷子になるんじゃないかと思っていたんです。

はじめから1人で行かされることはないから大丈夫ですよ。

そうそう、勉強することはイチからみんなが教えてくれます。

うまく撃てるといいんですけどね〜。

最初から当たるとは限りませんから。初猟から何年も仕留められない人もいるそうですよ。よく「外すのも勉強」って先輩たちに言われています。

な、なるほど!ベテランハンターさんから習うことが多いんですね。若手として、普段から気をつけておくことってありますか?

新人のうちはタツマでは勝手に動かないことですかね。

怒られちゃうんですか?

怒られるというより、危険ですから。そのうち、勢子や獲物の動きがわかってくると自分で考えて動くことも大切になってくるんですけどね。

勝手に動かない……(メモを取る)。

あと、みんなでああやってワイワイ話しているじゃないですか。

はい(横では大谷さんはじめ、ベテランさんたちが楽しそうに談笑しています)。

ああいった何気ない雑談の中に狩猟に関する知識や心構えが含まれているので、しっかりと聞くようにしています。

狩猟の失敗談の中にもためになる話があるんです。

そうなんだ〜!ぼんやり食べてる場合じゃないですね。巻き狩りのメンバーとして参加して、どんなことがうれしいですか?

勢子をしていて、自分がかけた犬が追った獲物を射手の誰かが仕留めてくれるとうれしいですね。

あと、自分で見つけた足跡をきっかけにして獲物を仕留められた時もいいよね。

そうか、巻き狩りには獲物との心理戦のような楽しみもあるんだ。撃つだけじゃなく、勢子や見切りの仕事にもやりがいを感じられるんですね。では、若手として気になることはありますか?

今、自分がチームで一番の若手なんですが、自分の下の世代が猟友会に入ってきてくれるか気になりますね。

確かに。ベテランさんの技を受け継ぎたいですものね。女性ハンターが増えることはどうですか?

女性ハンターさんってかっこいいと思いますよ。男女ともにウエルカムです。

巻き狩りでは1人でも多い方が猟果が上がりますからね。先輩たちに教えてもらって、タツマを覚えて、みんなで喜びを分かち合う。四季を通じて色々な経験ができますよ。

ぜひ、檜原猟友会へ!

みんな冗談は言うけど、紳士ばかりですから(笑)。

お!ありちゃんも仲間入りしてくれるのかな?

ぜひ!デビューしたあかつきにはまた色々教えてください!

もちろん。見学もいつでもいらっしゃい。

うれしいです。今日はありがとうございました。

地元の野菜もたっぷり入ったシカ鍋に大満足!の、ありちゃん。

ありちゃん、しっかり猟師鍋までごちそうになってましたね。若手の二人も話していましたが、狩猟の後に料理を囲みながらみんなで話をするのも大切なこと。チームの連携も、より強まります。このように若手がしっかり育っていることは猟友会の強みでもありますね。ハンターの1人に「百聞は一見にしかずだよ」と言われていたありちゃん、ますますデビューする日が待ち遠しくなったようですよ。

あれー?カリタローどこに行ってたのよ。外にいたのね?

憧れの先輩たちと一緒にシカの皮をいただいてたんだ〜♪おいしかったよ。ボクも先輩たちにたくさんお話聞いちゃったワン。

それは良かったね(笑)。これからも二人、がんばろうね!

大谷嘉兵衛さん 東京都猟友会檜原支部支部長。巻き狩りのリーダーを務めるハンター歴40年以上のベテランさんです。


 

次回のありちゃんにはどんな出会いが待っているかな?お楽しみに!

次回12につづく!

                 

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